KEYのむくまま NO.67

   
   「誰に習っているの?」

人はなぜか、何でも習いたがるようだ。
答をだれかから聞きたいのはことギターに限ったことではない。
理路整然とした説明など聞けば「なるほど」と腑に落ちて心地よい。
それだけでもけっこう満足できる。
最近の美術館などで解説の聞ける機械のレンタルがあって、
ずいぶん大勢の人が聞きながら鑑賞しているのも、その辺りの心理をついているからだろう。

しかし、ことギター(音楽と言ってもいい)はたとえ習って、答(弾き方の説明)を聞いたとしても、
「話は判る」という以上のものはなく、とても音にはならないだろう。
ティーチャーは問題のフレーズを弾いて聴かせてくれるだろうし、解説もしてくれるだろう。
よいティーチャーであれば、音も話もきっと納得のいくものになるだろう。
ところがそれを自分の身体で実際にやるとなると、そのままでは使えない。
各人の脳も身体もその性能はたぶんわずかずつ違い、
その個体差からやり方を変え(アレンジせ)ざるを得ないからだ。
手の大きさとか、関節の可動範囲の差。筋肉のレスポンスのスピードの差など、
違う条件のもと、それをひとつのやり方でくくるのはどうしても無理がある。

ティーチャーが示せるのは、ティーチャーのやり方だけである。
ティーチャーの模範を参考(じっさいにそこで見たり音をきけるのだから、
凄いことではあるけれど)にして、自分の感覚を頼りに、
丁寧に練習を重ねることによって探し出してこそ、
本人にぴったり合ったやり方は見えてくる。
こういう地味な作業、こういう探究こそがギターの面白み、醍醐味なのだ。
     
スペイン語で「誰に習っているの?」は、Con quien estudias? である。
con=with、quien=who、estudias=studyとすると判りやすいだろう。
教える側も習う側も「学んでいる」ということを含意しているようなこのたずね方が大好きだ。
                                         < 大谷 環・記 >


 大谷 環 クラシックギター    
 
 < 大谷 環 tamaki ohtani >
  作曲家菅原明朗に師事したのち、1978年にマドリッドに留
 学。スペイン王立音楽院ギター科主任教授ホセ・ルイス・ロ
 ドリゴに師事する傍ら、アンドレス・セゴビア、オスカー・
 ギリア他の名手に指導を受ける。アンドレス・セゴビア記念
 館落成記念コンサートをはじめ、ヨーロッパ各地で演奏。
  1986年帰国後、リサイタルのほか、さまざまな楽器とのア
 ンサンブルを行う。
   1953年生
  ベジタリアン  趣味:太極拳
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大谷 環/作・編曲の楽譜、テキストは こちら  CD・録音作品は こちらへ どうぞ